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第4話 面倒事は勝手にやって来る2

作者: 月城葵
last update publish date: 2026-06-15 13:00:37

 南へ歩くことしばし、見えてきたのは小さな集落。

 家が十軒そこら、寄り添うように建っている。

 煙突からは白い煙がのぼり、子供たちが追いかけっこをしている。

 平和に見えるが、依頼書の被害報告はここのことだ。

「お~い、ギルドの人かい?」

 声をかけてきたのは、腰の曲がった農夫。

 顔色は冴えない。

 俺が頷くと、村人が集まってきて口々に説明を始めた。

「最初は豚だ。一昨日の晩にやられた」

「うちじゃ翌日に山羊がやられてな」

 なんとかしてくれ。

 今にも、そんな言葉が出てきそうだ。

 それを調査しに、来ただけなんだが……。

 そう思って、辺りを見渡す。

 ……死骸がないな。やっちまったか?

「死体はどうしました?」

「血まみれで……いや、もう死骸は片付けちまった」

 はい、現場検証する前に証拠隠滅完了。

 ありがちだ。

 村人にしてみれば当然か。

 放っておけば腐るし、匂いが獣を呼ぶ。

 こっちとしては、「せめて骨くらい残しておいてくれ」と言いたいところだが。

「柵も壊されちまって……」

 案内された家畜小屋をのぞく。

 なるほど、木の柵が横倒し。

 釘はまだ新しいのに、根元からへし折られている。

 俺はしゃがみ込み、折れ口を指でなぞる。

 刃物じゃない。噛み跡もない。

 力で押し倒した感じか……。

 つまり、何かデカいものが通ったってことだ。

 さて、面倒ごとの匂いがしてきたぞ。

 まずは血痕。

 ……おっと、やっぱり残ってるな。

 地面にこびりついた赤黒い染みを指先でこすってみる。

 乾いてはいるが、まだ数日は経っていない。

 その近くに、毛が数本落ちていた。

 山羊の毛より固くて短い。

 色も違う。

 狼にしては短すぎる。

 犬でもない。

 じゃあ、何だって話だ。

 視線を落として、柵の外の地面を確認。

 山羊の小さな蹄跡に混じって、別の足跡がある。

 幅広で、爪痕が深い。

「……野犬じゃねぇな。狼でもない」

 この辺りでよく出る獣といえば大猪。

 けど、あいつら家畜なんざ襲わない。

 草木や畑を荒らすのが専門だ。

 山羊も豚も、食う習性はない。

 となると……。

 溜息をひとつ。

「ワイルドボア……かよ」

 猪に似た魔物だ。

 体格は馬並みで、突進力は洒落にならない。

 大猪と違って雑食、時には人間さえ襲う厄介者。

 村人たちに向き直って、仮説を告げる。

「結論から言うと、ワイルドボアの可能性が高いです」

 俺がそう告げると、集まっていた村人たちの顔色が一斉に曇った。

 そりゃそうだ。

 普通の猪でも畑荒らしで厄介なのに、こっちは人も襲う魔物だ。

「柵の周りに大きな杭でも仕掛けておいてください。突進を止めるしかないんでね」

 一拍の沈黙のあと、誰かが小さく呟いた。

「ワイルドボアか……」

 次の瞬間には「おい、みんなやるぞ!」と声が上がり、男衆が一斉に動き出す。

 斧を担ぐ者、杭を運ぶ者、縄を引きずってくる者。

 農民の切り替えは早い。

 生き延びるためなら、当たり前か。

 俺はその光景を眺めながら、肩をすくめた。

「じゃ、ちょっと森の方へ見に行ってきます。夜までには完成させてください。あいつ、夜行性なんで」

 村人たちが無言で頷くのを確認し、俺は腰の袋を締め直した。

 さて、ワイルドボアならいいんだが……はぁ、いっちょ行きますか。

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